これも二次創作もの。
青の章のSランクエンドを見た後に書きなぐった茜作戦の話。

たぶんこういうことじゃないか、と思ったらしいです。
(多少ネタバレ含みます)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茜大介は、作戦指令室のパイプ椅子を蹴り倒した。
気が短いのは直らない。
立案時から犠牲は大きなものになるだろうと予想されていた。50%の戦力が失われればそれは即ち負けだ。しかし、今回だけはそれでも勝たなくてはならない。
それ以上の人類を失わないために。
茜は部屋の隅で血の海に横たわる総合司令官の方をちらり、と見た。銃声を聞いても、まだ負けたわけではないのに気の早い人だ、と茜は呆れるしかなかった。幾島佳苗ならもっと犠牲を減らせたかもしれないと今は不在の才媛の姿を思う。
「予定より遅い!どうなってる!」
「ラインが寸断された模様です!現在防戦中の…ああ、残っているのは第108海兵師団石塚中隊のみということで…」
「石塚中隊…そうか」
茜は眉を寄せた。
「あの隊は夜目が効くからな。暫く持ちこたえるだろう」
茜は指が白くなるまで握りしめた拳を、そっと机の下に隠した。
持って一時間だろうか…夜明けにはまだ程遠い。
結局彼はあのデータを解析したのだろうか、と茜は思った。
不思議の側の大河に寄れる者は限られる。石塚はあの父島撤退戦で余人よりわずかに大河に触れたと思う。だが、それだけだった。

 

蔵野みずほの声が暗闇に響く。
「周囲10km、敵影、ありません」
「そうか…みんな、小休止だ。何か少しでも口に入れておけ」
空は晴れているが、あちこちで燻る煙りの為、星は見えなかった。
ガレキにもたれるように腰を下ろすと、古関里美が水筒を渡した。
「ありがとう。君の分は?」
「大丈夫です。さっき飲みましたから」
弘はキャップを外し、ほんの一口だけ口をうるおすと、水筒を古関に戻す。
「ふっふーん、間接キッスですわよー」
「ばか」
そう言って古関の頭をポン、と叩いた。古関がちろりと舌を出す。

ふと、傍らに立っていた影が隣に腰を下ろした。
父島撤退から向こう、一度も姿を見ていない男。
「…しかし、何故お前がここにいる?」
「辻野がどうしてもみんなと戦うて言うからじゃ。わしは辻野を守らんといかんけの」
「ああ、それじゃあ彼女だけは大丈夫なのか。安心したよ」
田島は悲しい目をして石塚を見る。
「終りかのお?」
「すまないな。流石にあの時の奇跡はおきん」
「奇跡じゃなか。あれは実力じゃ」
「だが、もう残弾も少ない。次に攻め込まれたら終る」
「そうか…それが委員長の見立てじゃな」
「何度も経験したからね。でも多分これが最後だ」
「お別れじゃな」
「辻野、頼んだよ」
「……」
田島は黙って立ち上がった。
「委員長、終わりを見たいか?」
「まさか…見たくも無いし、見る前にこと切れるよ」
「違う、この戦争の終りじゃ」
「見たく無いやつがいるか。それを信じて全ての兵士が戦って来たんだ」
「…わかった」
田島が跳んだ。闇夜に一迅の光が指す。光はやがてゆっくりと人の形になり、翼を広げた。
この形は…弘は忘れない。
たんぽぽのブイから集積されたデータ解析画像の、ノイズの中に浮かび上がる不鮮明なシルエット。永野が「希望号」と呼んだ人型戦車。
「わしはまだ未熟じゃけ、辻野一人なら自信があるがこれだけの人数だとどうなるかわからん。しくじったら許せ」
「何をする気だ、田島…」

 

多摩川の河川敷で栄光号のアイドリングをしていた永野永太郎は、西の空がまばゆく輝くのを見た。光はエネルギーを持ち、開いたハッチから風が流れ込む。
「なんだ?!」
暖かい風だった。それは父島の、凪のあとに吹く海風に似ていた。
「あ…」
郷愁を感じたわけでは無いのに、涙が溢れてくる。
「何を…バカなッ!」
グローブ越しに涙を拭う。心臓が嫌な鼓動をたてる。
ノイズ混じりのスピーカーが、不意に予感を現実に変える言葉を伝えた。
『戸塚防衛線が突破された!各員戦闘準備!』
「くそッ!だからあんなクソガキが立てた作戦などッ!」
永野にもこの作戦の意図も重要性もわかっていた。だから口先で茜を罵ることしかできない。
計器類が涙で歪む。だが、永野は他目的リングを直結させ、栄光号を立ち上がらせた。
同時に、僚機が次々と起動した。
河川敷を埋め尽くす夥しい数の人型戦車。多摩川を越えられたら、日本という国は消え失せる。

“また、みんなでここに帰ろう”

あの時他所者の自分にはわからなかった。あの狭く暑く不自由で、これから放棄しようという島を命がけで守ろうとしていた彼らのことが。
人には帰る場所が必要なのだ。
迎えてくれる人が必要なのだ。

“いつかまたみんなでここに帰ろう”
そう笑いかけた石塚の言葉に、自分も含まれていたと確信できる。

『第18、19、20機甲団は前へ!鶴見川防壁まで前進する!』
号令が掛かる。
永野は栄光号の足を大きく上げて、前に進んだ。
はるか向こう、地平線を彩る劫火の上に、金星が輝いていた。