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ほう ほう ほう
どこかで低く鳥の鳴き声がした。
小心者のまきはビクっとその肩を縮める。
なんだ、フクロウか……あれ?銀の谷にもフクロウ、いるんだ。
深い山の木々に覆われた洞窟の前で、彼女は空を見上げた。
夜明けにはまだ遠いのか、漆黒の闇が辺りを包んでいる。
人工的な光源はなく、半円形の月が照らす明かりだけがかろうじて空と木々のシルエットを別けていた。
「遠くに来ちゃったなぁ…」
見ず知らずのこの銀の谷に来て数日。
リンであった石塚は元々の知識に加え、現地のリンとの交流で情報を持っているようだったが、彼女にそれを教えてくれることはなく、ただ彼の後をついていくだけだった。
掴んだ石塚の貫頭衣の裾がするりと手の中から滑って、離れていく。
それが最初のへこみだった。
私はただのお荷物、かぁ。
お腹がすいて眠れない。無理して横になっていると、どんどんクゥクゥとお腹の鳴る音が大きくなって、隣で寝ている石塚さんを起こしてしまいそう。
だから眠くて勝手にまぶたが落ちてくるまで時間を潰そうと、洞窟から一人抜け出してきた。
なんでなんかなぁ。
どうして石塚さんはちゃんと話してくれないのかなぁ。
地べたにしゃがみ込んで、落ちていた小枝を拾う。世界が違っても小枝は小枝だった。
私、そんなに…文句いうかなぁ。
婚約者がいたことは確かにびっくりした。でもよくある話だと思った。
だって石塚さんはあんなに素敵だもの。
私以外に女の人が居たって不思議じゃない。
カリカリと小枝の先で地面をかく。
澄んだ空気の中で、月の明かりが青く周囲を照らしていた。
鳥に種でも運ばれ芽吹いたのか、草むらに一輪だけ顔をのぞかせた銀の花が月光を浴びて輝いている。
ほーう ほう ほう
またフクロウが鳴いていた。耳を済ませば、小さな虫の声も聞こえてくる。
フクロウってどんな顔だっけ。
土の上に小枝を滑らす。
カリ カリ カリ
「夜は目がぱっちり。昼間は寝てる…」
カリ カリ カリ……
「耳みたいな逆毛ががあるからミミズク、まあるいのがフクロウ…」
婚約者の人は綺麗な人かなぁ。
白オーマって基本的に美形なんだよなぁ。
まきの口から小さな溜息が漏れる。
きっとちょぉセクシーでナイスバディで大人っぽくて、肌が雪みたいに白くて、切れ長の瞳の綺麗な人なんだ。
……だってリンオーマだもん。
会ったことないって言ってたけど…言ってたけど…
たぶんオーマの記憶の中にはいる人なんだろう。
私、お邪魔なんじゃないんかなぁ。
石塚さん、勝手にオーマ辞めちゃって、
婚約者さん、悲しんでないかなぁ……
ぱきん、と小枝が折れた。
頬を伝った涙が、膝頭へと滑り落ちる。
地面に描かれた昼間のフクロウの顔は、どこか石塚に似ていた。
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