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ほう ほう ほう
どこかで低く鳥の鳴き声がした。
こんな夜更けに鳴く鳥は、梟の類いか、と石塚は思う。
南国であるこの国は生態系が豊かであり、ここに来てから様々な生き物を目にしていた。ましてこの家は山の中腹にあり、どの梢に梟が止まっていても驚きはしないだろう。
彼は一人、屋敷の縁側に腰をかけ、静まり返る夜の闇の中で五感を研ぎ澄まし、周囲の気配を探っていた。
ここ最近の治安混乱に乗じて、明らかに外部からの招かれざる客人が共和国に侵入している。
目的は判らないが、ターゲットはACEと呼ばれる存在だと噂され、姿を隠した狙撃による被害が各国で出ていた。
比較的安定を保つ鍋の国でもその悪意を持った存在の出現は予想されていた。
この国の藩王の伴侶、矢上・M・総一郎の先読み予測は脅威的だったが、犯行グループの正体を断定するのはその能力の及ぼす範囲ではない。
そして妻の不安要素を取り除くために奔走する彼は忙しく、まして“野郎は自分で身を守れ”という言わずもがな、なこの国のACEの不文律で、矢上は彼らに余計な指示を出すことはなかった。
視線の先に白い建物がある。
そこに“まき”が寝ている。ログアウトしても消えることのない存在だ。
アトリエとして建てた彼女のワンルームは、海に向かって広い窓があるものの、その先は崖である。
狙撃者が身を隠すであろう山肌から彼女の寝床は完全に死角であり、接近するには満月に照らされた庭を横切らなくてはならない。
だから彼は、寝ずの番をしているのである。
ほーう ほう ほう
また、梟の声がした。雌でも呼んでいるのか、低く遠くまで響く鳴き声だった。
部屋の中でよく事情も知らず、眠っているであろう彼女の被介入体。
同じ顔をして同じ声で喋り、同じように不安げな目で自分を見つめて、同じように凹む。
魂はそこにないのかもしれないが、あの身体を失うと彼女はもうここに戻って来れないのだと思う。
だから彼は彼女を守るために、周囲の警戒を怠らない。
庭に茂る木々の間に海が見える。
月明かりが海面にきらきらと輝き、夜であることを忘れさせるようだった。
確かに初寝浦展望台から見る景色に似ているな、と彼は目の前の風景と胸に残る懐かしい思い出を重ねた。
遠い記憶。取り戻すことなどできないと、捨ててしまおうとした過去。
『私はあのとき見た景色を、世界を、人たちを、取り戻したい』
『一人では無理でも、変えられるせかいはあるよ』
金色に輝く思い出の海を背に彼女はそう言って、いつの間にか“みんなの力”とやらで“せかい”は巻き戻って別の時間を刻み始めた。
そして自分は――
一人歴史から切り離され、この古びた農家の縁側で故郷とよく似た景色を眺める日々を過ごしている。
だが、それを退屈だとは思わない。
彼は自分の生き方をひっくり返し、この世界へと住まわせることとなった彼女の顔を思い浮かべる。
ふいに梢を揺する音がして、彼は意識をそちらに向けた。握ったハンドガンのセーフティの位置を指で確認する。
と、近くでバサバサと大きな羽音、そして遠くでもう一つ、ホゥ、という少し高い鳴き声。
相方が見つかったのかい?
石塚は小さな笑みを浮かべて空を仰ぐ。
彼の胸に浮かぶ彼女の顔は、どれもうつむいて、それでも一心に自分を見つめていた。
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